2020/3/15最終更新(11巻)。
日本の仏教の礎を築いた天才僧侶2人、最澄と空海の生い立ちから人生を描くハイスケールコミック「阿・吽」(あうん)。
太陽のようにギラギラ邁進する弘法大師空海と、月のように静かに佇む最澄のキャラクター対比がみごとに描かれており、仏教や歴史に詳しくない人もあっという間に物語世界に惹き込まれます。
2016年にこのマンガと出会い、今一番どハマりしている作品。
ミホの超オススメマンガ、ご紹介しますね。
目次
マンガ「阿・吽(あうん)」とは?
日本の天台宗の開祖、最澄。
真言密教を確立した空海。
おかざき真理さんの繊細かつ大胆な筆によって、2人の人生が華麗に衝撃的に描かれています。
二大僧侶が題材とあって崇高で美しい物語かと思いきや、僧侶の女犯や巷に跋扈する野盗など、時代の暗黒部分にも果敢に斬り込んでいるのがすごい。
目を背けたくなるようなエグいシーンにも何度も出会うことになり、戸惑いつつも、不安定だった当時の情勢を知れるのです。
最澄も空海も「徳を積まれた完璧なお坊様」としか認識していなかったことを後悔する名作。
スケール感も画力もダイナミックで、フィクションマンガではあるけれど、平安時代の時代考証、最澄と空海の人間性に触れるきっかけとしてとってもオススメなマンガなのです。
1巻
1571年、織田信長によって比叡山が焼き討ちされるシーンから物語は始まります。
そう、天台宗 比叡山といえば、多くの人にとって「織田信長に焼き討ちされた山」という印象が強いですよね。
この物語は比叡山焼き討ちの800年前、奈良時代から平安時代にかけてが舞台。
泣き虫で感受性の強い広野(最澄)、常に命がけで破天荒な人たらしな真魚(空海)の、魅力があますところなく描かれていて1巻からぐいぐい惹き込まれてゆくのです。
朝廷や貴族の腐敗をことごとく感じ取ってしまう真魚の鋭敏な感性と天才性。
貧しい村娘や最澄を崇拝している後輩僧侶の相次ぐ理不尽な死が残酷に描かれれていることで、泣き沈む最澄の清廉さが際立つ作家の構成力と画力も圧巻。
最澄も真魚も「エリートコース」を歩める家格と資質を持っているにも関わらず、信念に従って進んでしまう過程もよく分かります。
水際で瞑想中の最澄を真魚が発見するシーンで、2巻へと。
2巻
比叡山へ入山した最澄が己の無力さに絶望し、大切に収集していた経典を小屋ごと燃やして慟哭するシーンが心に深く響きます。
試練の苦悩が続くなか、「すべての人を救いたい」信念を曲げず進んでゆく姿が清々しく本当に立派。
中盤から桓武天皇、藤原種継、和気清麻呂など日本史で習った人物も続々と登場し、最澄が朝廷の闘争へ巻き込まれてゆきそうなところで3巻へ。
3巻
真魚が「空海」となる壮絶な過程が描かれている3巻。
室戸岬にて経を100万回唱える荒行「虚空蔵求聞持法」に挑む真魚の姿に、肌が泡立ちます。
神秘的な集団ツチグモ一族との交わりにより、高野山を守ることを決意する空海。
いやはや、ストーリー展開がみごと過ぎる。
全く異なる人生を歩みながら、同時期に唐へ渡ることを決意する最澄と空海がどうなるのかは4巻へ。
4巻
桓武天皇と安殿親王の親子間の確執が、最澄が袂をわかった南都六宗と最澄との講義対決、そして最澄と空海の邂逅へと繋がっていく4巻。
唐行きの決意を固める2人にそれぞれ厚い壁が立ちはだかりますが、周囲の人々を巻き込みながら遣唐使入りを目指します。
どこまでも清廉な最澄と、破天荒な空海。
最澄は遣唐使に選ばれ、空海は選ばれなかったところで5巻へ。
5巻
遣唐使として旅立つ最澄へ続々とお願いごとに訪れる人々、遣唐使に選ばれず仏足頂礼(五体投地)を何日も続けて倒れる空海。
人生の明暗が別れたかのように始まる5巻ですが、運命は空海に味方し、遣唐使船に乗れることになるのです。
大宰府で邂逅した2人が、高みへ高みへ、そして深みへと読経を続けるシーンは息をするのを忘れるほどの迫力。
ついに唐へ辿りついた2人の運命がめちゃめちゃ気になるところで、6巻へ。
6巻
華やかな長安で様々な民族と出会い、密教を学びつつ世の心理に迫りゆきます。
「色即是空 空即是色」。
わたしの実家も真言宗なので、幼い頃から耳にしていた言葉が多く登場。
難しい仏教用語が多用されているのに、登場人物のしっかりしたキャラクター作りと画力でとっつきにくさを感じさせないのが素晴らしい。
一方、天台で一心不乱に経文を読み法華経の深淵に迫った最澄は、帰国を前に寺僧から「あなたは運がない」と言われてしまいます。
この言葉が帰国船を前に強く暗く生き、最澄と空海の運命を大きく隔ててしまったところで7巻へ。
7巻
唐から帰国した最澄は、体調がすぐれない桓武帝のために天台法華、続いて密教で病気快癒の祈祷や灌頂を行うが・・・。
一方、19年の留学期間を残す空海は、密教真言八祖の第七祖 恵果大和尚の跡目を継ぐ第八祖として認められ、胎蔵界灌頂・金剛界灌頂・伝法阿闍梨位灌頂を受け、「遍照金剛」の名を受ける。
繊細かつ迫力あるタッチで描かれる灌頂と跡目引継の様子に、どっぷりと物語世界へ引き込まれ、また「人たらし」である空海の人的魅力にも更にハマっていく巻。
「日本へ帰る」宣言をした空海に驚いたところで8巻へ。
8巻
2018/8/14発行。
空海は、例外的に唐へやってきた遣唐大使 高階隼人遠成とともに、日本へ!
帰国を前に恵果大和尚の遷化、唐での先輩友人との惜別が物悲しくも華やかに描かれる。
空海とともに帰国し、ひとあし先に帰京する橘逸勢のセリフ「ここから人生だ。京で待ってる」が秀逸。
日本国内では桓武天皇の崩御とそれに続く平城天皇の即位、政事にふりまわされながらもすべてを救おうとする最澄と坂上田村麻呂の姿。
伊予親王の自害に涙しつつも、空海が関西和泉 槇尾山寺へ戻ってきて期待が膨らむところで9巻へ。
9巻
2019/2/12発行。
ついに譲位を決意した平城天皇であるが、表面上は対立なく政を行おうとしている嵯峨天皇に対して起こる「薬子の乱」という悲劇。艶やかでたくましい薬子、いや、藤原式家の滅亡には複雑な想いが宿る。
一見ヘラヘラしつつも「美しく」なめらかに嵯峨天皇の御代が築かれてゆく。
和泉まで都へ入れないでいる空海のために上表文をしたためつつも「どんなことをしても京に呼ぶ価値のある・・・経典です」と言い切る最澄と、最澄に感謝し「密教修法をともに行おう」と誘う空海の対比にも心ざわめく。
視覚と聴覚を取り戻した最澄と、着々と嵯峨天皇の信頼を得てゆく空海の未来はいかに?10巻が待ち遠しい!
10巻
2019/10/11発行。
最澄への対抗馬として、南都から東大寺別当に推された空海が魅せる、維摩の一幕。華厳。
後継者として大切に育てた泰範が突然比叡山を去り、孤独に押し包まれる最澄。
嵯峨天皇と橘嘉智子妃の死生観、丹生都比売との約束。あらゆるレイヤーが、おかざき先生の圧倒的に繊細で美しい線で描かれる。
どれだけの孤独にさいなまれても「それでも全ての人を救わなくてはいけません」と前進する最澄。
そしてついに、最澄から空海への弟子入り申し出!!11巻での展開が待たれる!
11巻
2020/3/12発行。
最澄へ密教の灌頂式を行う空海を、それぞれの弟子、丹生都比売が見守る。
無意識のうちに死を願っていた空海を、最澄の「我の死はもう決まっている」というセリフが突き抜ける。
お互いに強く惹かれ合い、ともに時間を過ごしながらも、どこかチグハグな空海と最澄の様子・・・。
胎蔵界結縁灌頂には、比叡山を去った泰範が現れ、今後の波乱の展開を予想させる。早く12巻が読みたい!
12巻
2020/9/11発行。
嵯峨天皇の御代となり、藤原冬嗣の権力が増してゆく。
おかざき真理先生の繊細な筆遣いで描かれる、平安貴族と平安仏教の耽美的かつ刹那的な世界。
最澄の死までの日数が示されるたび、わたしの人生に大きな影響を与えてくれているこの作品の終焉も近いのかと思うとやりきれない。
13巻
2021/2/12発行。
平安朝廷で着実に人気を得ていく空海に対し、孤独感を増していく最澄。
東北への旅で再会した、最澄と徳一の対立の始まり。民が「幸せです」と口々に言う東北の村落の悲惨。
空海の「彼が年下であったら」というセリフが重い・・・。
14巻(完)
2021/9/10発行。
ついにこの日が来てしまった、『阿・吽』最終巻発行日。
空海の満濃池治水事業も興味深かったが、「あぁ、終わってしまうのか。ここで終わってしまうのか」というさみしさが先に立ってしまう。
空海ファンとしては、高野山のその後、四国八十八カ所についても描いて欲しく、悲しくて読めない気はするものの空海入滅までもおかざき先生の筆で読んでみたかった・・・!
名残惜しく何度も何度も、読み返している。
14巻を読み終えて
「人生に影響を与えたマンガ」の1つとなったこの作品。
『阿・吽』の影響で真言宗と天台宗、空海と最澄、特に真言宗と空海に対する興味が深まり、四国八十八カ所参りを始めた。
八十八カ所参りはコロナ禍のため休止しているが、収束したら再開するし、高野山へもお参りする企画が進んでいる。
おかざき先生はどれだけの資料を読まれ、どれだけの方々に取材をし、この壮大な物語を描き上げられたのだろう。心から感謝申し上げます。
セット買いがお得
司馬遼太郎著『空海の世界』もご一緒に。
関連記事
尾道の名刹「千光寺」は、大同元年(806)弘法大師空海の開基とされています。
おかざき真理さんの『かしましめし』も超オススメ!