脳科学者 黒川伊保子さんに学ぶ「日本語の美しさ」。
「日本語の歴史や、敬語(尊敬語・謙譲語・丁寧語)の使い分けについて、脳科学的に書かれているのかな」と手に取り、いい意味で大きく裏切られました。
胎児期からの脳の成育に合わせた母語と母国語の大切さ、日本語の素晴らしさ、相手との距離を操ることば選び。
目からウロコがボロボロ落ちたり、日頃の違和感が払拭されたり、腹に落ちる事柄にあふれた一冊。
特に乳幼児や小学生を子育て中のご両親に読んでいただきたい名著、ご紹介しますね。
目次
第一章 母語と母国語
母語と母国語とは何か
母語というのは、脳が、人生の最初に獲得する言語のこと
その国の風土と人々の意識とによって、長く培われてきたことばが、母国語
恥ずかしながら、「母語」という言葉と意味を初めて知りました。
極東の島国、しかも鎖国の歴史がある日本だからこそ、外来語が混じらない「美しいやまとことば」の基礎がしっかり築けたのでしょうね。
幼少期から英語教育を行おうとする危険性と、その対極にある「日本語ブーム」の行方をしっかり見つめていきたいと思います。
第二章 日本語の危機
私は、日本語の存在価値を「嘘」にしたくない
脳科学の世界はまだまだ未知の領域ですが、国文学が大好きで、日本語が大好きなわたし。
日本語の存在価値を低めているとしか思えない昨今の風潮には、怒りを越えて恐怖を感じます。
母国語を母語にしようと思ったら、3歳までは、他の言語と混ぜないで、しっかり伝えなければならない
脳の母語の機能が定着する12歳を越えたら、何語でも何ヵ国語でも好きなだけ勉強すればいい
そうだったのか、と目からウロコ。
「脳みそが柔らかい幼少期から、英語を勉強させたほうがいい」という通説は、習熟度は別として、脳科学的にはよくないのですね。
第三章 母語形成と母語喪失
言語脳が完成する8歳までは、パブリックとドメスティックで使うことばは、同じ言語であることが強く望ましい
子育て中のご両親、教育者の方々に、この本を是非読んでいただきたい!
「英語はペラペラ話せるけれど、情感が読み取れない」子どもが増える前に・・・。
第四章 脳とことば
胎児期から12歳までに、ヒトは母語の獲得とともに、感性の根幹を作り上げている。12歳までの子どもの脳は、意外に忙しいのである。外国語教育を押し付けられたら、脳はやるべき仕事の一部を放棄するしかないのだ
胎児期から12歳まで、脳の発達や仕組みについて詳しく解説がなされています。
「そうだったのね!」と衝撃を受ける内容が続きますが、不思議なほどストンと腹に落ちていきます。
なにかしら違和感を感じていた家庭教育・学校教育の「何がどういけないのか」がよく分かるからでしょうね。
海外赴任や国際結婚はどうしたらいいの?
第二章から第四章を読んでいると、疑問や不安も出てきます。
が、ご安心ください。
幼少時期の海外赴任(子どもにとっては海外への転校)、国際結婚、それぞれのケースに応じた解決策が詳しく書かれています。
第五章 母語と世界観
西洋と東洋の文化・意識の違い、英語・日本語のことばの「ありよう」の違い。
ダンスと日本舞踊を比較しつつ、分かりやすく書かれています。
日本人の奥ゆかしさや協調性は、「日本語を母語としているから」による部分がすごく大きいんだなぁと実感。
第六章 ことばの本質とは何か
日本人にとって、音韻の発音体感と意識と所作、情景は、歴史上、一貫して一致している
日本語に擬態語が多いのは、発音体感との一致が優れているからなのですね。
かのソクラテスが憧れた「発音体感と意識の一致」した言語である、日本語。
情緒があり、感受性を豊かにするこの美しいことばを、大切に大切に守っていきたい。
第七章 ことばの美しさとは何か
名はかたちを作る。(中略)名づけるという行為は、生むという行為に等しい
母音と子音、か行、さ行、た行それぞれの発音体感を読んでいると、「あぁ、なるほど!なるほど!」と納得の連続です。
「名は体を表す」、昔の人は無意識に発音体感を感じていたのでしょうね。
第八章 ことばと意識
子育てと乳幼児・児童教育に携わっていない方は、この章が一番、実用的です。
心を開く会話と、甘えさせない会話
心を開く会話:「母音」の多用。訓読み、やまとことば。母音の挨拶推進。
甘えさせない会話:「子音」が強く響くことば。音読み。
「嬉しかったです」と「感謝します」。
「ごめんなさい」と「失礼しました」。
心で感じる「距離感」は、「プライベートシーンではあまり使わないことば」だからではなく、「発音体感」からくる「あたたかさ」「冷たさ」にあったようです。
ありがとう、嬉しい、おはよう、おやすみなさい、おつかれさま。
母音の挨拶と感謝のことば、大切な人へしっかり使っていきましょう。
反面、ビジネスシーンではあえて「子音が強く響くことば」を使って、クールに物事を進めるケースも必要ですね。
ケースバイケース。ことばのTPOもわきまえたいものです。
まとめ
言語学や音韻学とはまったく異なる切り口で書かれている「美しい日本語」。
これからお父さん・お母さんになる方、子育て真っ最中の方、保育所・幼稚園・小学校の先生、お稽古事や塾の先生に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
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